大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和55年(ラ)1063号 決定

抗告人

池田正勝

右代理人

久保田保

主文

本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一本件抗告の趣旨は、「原決定を取消し、さらに相当の裁判を求める。」というにあり、抗告の理由は、別紙抗告理由書に記載のとおりである。

二よつて、抗告理由について判断する。

1  抗告理由一について

民事執行法施行前の競売法三二条が準用する民事訴訟法六八八条五項は、「再競売ヲ為ストキハ前ノ競落人ハ競買ニ加ハルコトヲ許サス」と規定しているところ、その立法の趣旨は、競落人となりながら代金の支払をしない不誠実な者には、再競売において競買申出適格を与えず、競売手続を迅速に行うことにあると解される。したがつて、再競売において、前競落人代表者もしくは代理人が本人として競落人となる場合は、右の法意に照らし前競落人と実質的に同一人とみなすのが相当であり、両者を同一視すべきでない特別の事情が認められない限り、競買申出適格を否定すべきであると解するのが相当である。

これを本件についてみると、記録によれば、抗告人は原裁判所昭和四七年(ケ)第一四号不動産競売事件において、昭和五二年二月二三日の競売期日に山崎憲一、粕谷栄次両名の代理人として本件競買の申出をなし、同月一六日右両名の代理人として競落許可決定の謄本を受領していること、その後右粕谷が所在不明となつて代金支払期日の通知ができずに競売手続が遅延していたところ、抗告人は同年八月二九日付上申書をもつて、右粕谷の居所を確認のうえ払込を完了したいので同年一〇月末まで払込を猶予してほしい旨及び右期日経過後はいかなる処置をされても異議の申出をしない旨申述していることが認められる。

右によれば、抗告人は、右前競落人両名と同一視するのが相当であり、したがつて、本件再競売において競買を許すべき特別な事情があるとは認められないから、競買適格を有しないものというべきである。

当裁判所の右の判断と異る抗告人の主張は採用することができない。

2  抗告理由二について

抗告人が競買申出適格を有しないこと前記のとおりである以上、抗告人は競落許可決定につき不服を申立てうる利害関係人に当らないというべきであるから、抗告理由二については判断の限りでない。

三しからば、本件抗告は、利害関係のない者による不適法な申立であるから、これを却下することとし、抗告費用の負担について、民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(渡辺忠之 糟谷忠男 渡辺剛男)

〔抗告理由書〕

抗告の理由

一、抗告人は株式会社池田商事の代表取締役なるところ、債権者千葉相互銀行債務者新日本興業株式会社所有者水野健間の千葉地方裁判所館山支部昭和四七年(ケ)第一四号不動産競売事件において競売に付せられたる建物に対して賃借権を有するを以て、株式会社池田商事代表取締役大久保昌において同裁判所に届出をなし、同会社は本件の利害関係となつたのである。株式会社池田商事においては競売物件の競落により賃借権に多大の影響を生ずる恐れあるを以て、同会社代表者たる抗告人は昭和五五年九月一〇日の本件不動産競売期日に競売物件を競買せんと欲しく競売場に臨みたるところ、執行官より抗告人の買受申出を拒否せられたのである。其の理由として執行官は抗告人が昭和五二年二月二三日の本件不動産競売期日に競落人山崎憲一同粕谷栄一両名の代理人として競落したるも競落代金の支払いをなさざりしものであるので再競売たる本競売期日においては競買の申出する資格なしとせられたのである。然れども抗告人は右競落人の代理人として競落したもので競落の効果は競落本人に及び競落代金の払込みは本人のなすべきもので代理人であつた抗告人のなすべき行為ではない。然るに執行官は競落本人の代金不払を代理人たりし抗告人の行為なりと認定して抗告人の競買申出を拒否し競売に参加せしめなかつたのである。斯くの如き執行官の行為は代理行為の法解釈を誤り競買申出人の資格を不当に認定したるものというべく、何人にても競り売りに参加せしめて公正なる競落価格による競落を実施せんとする法の趣旨に反するものというべきである。依つて抗告人は本件競売期日に競買申出を拒否せられたる利害関係人として本件抗告に及びたるものである。

二、本件不動産競売事件において、荒井靖が競売物件を競落し、昭和五五年九月一六日同人に対し競落許可決定が為されるも、競落人荒井靖は本件競売物件の所有者水野健の実弟にして本件不動産を取得する能力なきものである。右水野健は旧姓を荒井健と称し、亡父荒井彰母荒井ツキの長男、荒井靖はその次男である。荒井健は昭和三三年三月二四日水野妙子と婚姻して香川県高松市東浜町二〇八番地に新戸籍本籍を有したるところ、水野妙子と昭和四二年十二月二五日協議離婚をなしたこととし、水野妙子が本籍を東京都世田谷区松原四丁目一一〇二番地の一四に移すや、荒井健は昭和四二年二月二二日水野妙子と再婚姻の届出をなして妙子の戸籍に入籍して姓を水野健と改めたものである、荒井靖においても本籍を健と同じく高松市東浜町二〇八番地としたところ、相川連子との婚姻により東京都府中市栄町二丁目七番地の二に新戸籍を編製し、更に新潟県新潟市東大通一丁目十七番地に本籍を移し、昭和四九年三月二五日千葉県安房郡白浜町白浜二八三〇番地(本競売物件所在地)に転籍しているのである。荒井健こと水野健及び荒井靖の住所登録による現住所は両名とも埼玉県入間郡毛呂山町大字長瀬三四五番地となつているのであるが、抗告人において知りたる範囲においても荒井健の住所は昭和四九年二月当時東京都渋谷区千駄谷三丁目八番一一号なりしを昭和五二年東京都世田谷区赤堤五丁目一番一四号に移転し、昭和五三年五月埼玉県毛呂山町滝ノ入一七二四番地に移転し、更に同町下川原七八二番地の六五に移転して昭和五五年七月前記の現住所に移転したものであり、荒井靖においても昭和五一年一〇月以前の住所は不明なるも健と同じく毛呂山町下川原七八二番地の六五に住所を移転して来て世帯主と妻の名義とし前記毛呂山町長瀬三五四番地の現住所にて世帯主となつたものである。斯くの如く、健・靖の兄弟は本籍及び住所僅かな期間に転々とし変更しているのであるがこの目的は多額の債務のため債権者からの追求を逃れんがためであつたとのことであつたと聞いている。水野健は本件不動産の所有者であり且つ賃借人たる南房総観光株式会社の代表取締役として本件競売物件により旅館営業を主宰し弟靖をして営業をせしめているので本件競売手続の遅延が彼等の利益とつながるのでその目的を以て右の如く本籍住所を転々移動したとのことである。右の如き次第なるを以て本件競落人たる荒井靖においては競落代金を支払う能力を有せず本件競売手続を遅延せしめんがために競落したに過ぎないものというべく同人に対する本件競落は許されないものと信ずるのである。

三、右の次第にて本件即時抗告に及んだのである。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例